鯉のぼりの素材による違いについて〜素材によって泳ぎ方が違う?!〜

五月の端午の節句に合わせて、外飾りとして大空を泳ぐ鯉のぼり。
その歴史は長く、これまで様々な素材が試され、改良されてきました。

それは、より生き生きと泳ぐことができるようにこだわり抜いた、鯉のぼり職人たちの戦いでもあります。

今回はそんな鯉のぼりの素材に着目して、これまでの変遷をご紹介していきたいと思います。また、それぞれの素材による泳ぎ方の違いについても紹介します。

目次

和紙の鯉のぼり

和紙製の鯉のぼり

特徴

和紙の鯉のぼりは、鯉のぼりの歴史で最も古くから用いられている素材で、各地域の色彩感覚を一番反映しているとも言えます。各地域の鯉のぼりのデザインの紹介はこちらの記事からご覧ください。

和紙がメインで使用されていた時代は、江戸時代後期からおおむね戦前とされています。西洋化の風を受け、洋紙の普及や綿布の価格が安価であったことから徐々に衰退していきました。

表現の違い

和紙の鯉のぼりのデザインはそれぞれの和紙の産地を代表する表現をもっています。
製法も手描きに統一されていたため写実的な表現も多く見られ、作家の個性が色濃く反映された作品が多いです。

木綿の鯉のぼり

木綿製の鯉のぼり 上:手描き 下:捺染(なっせん)

特徴

和紙の鯉のぼりと並んで、古くは明治時代より製造が始まったと言われています。新素材を用いた最高級品として各人形店で大々的に宣伝され、戦前には非常に愛された鯉のぼりの素材です。

木綿の鯉のぼりは、和紙に比べ色材が繊維に深く浸透するため濃いはっきりした色合いになる事が多く、より鮮やかな鯉のぼりとなる特徴があります。

表現の違い

和紙の頃には応用出来なかった、半纏や大漁旗の技術である筒描きという技法を用いた染色による技法や、戦後に兵庫県加東市で始まったとされる捺染(なっせん)と呼ばれる着物の友禅染めなどに近いプリント技法が誕生し、量産化が可能になりました。

木綿に捺染の鯉のぼりは戦後から昭和30年代頃までの僅かな間のみ製造されていたもので、現在では大変貴重な資料となっています。お家の鯉のぼりを見てみても良いかもしれませんね!

ナイロン製の鯉のぼり

ナイロン製の鯉のぼり

特徴

鯉のぼり最全盛期ともいうべき戦後復興間もなくの時代に誕生した鯉のぼりの素材です。量産を前提に開発されたため、既存の黒赤青に緑、オレンジ、紫などの全く新しい配色を取り入れた商品が多数販売されました。

メーカー同士の競争が盛んな時代のため、バリエーションも豊富に用意され独特な色の組み合わせが生まれたのもこの時代になります。

表現の違い

型を用いてプリントするため規則正しい線で構成された鯉のぼりが多いです。東西問わず様々な鯉のぼりが鮮やかさを競うように発売されたことで、地方ごとの特徴が薄まったとも言えます。

ポリエステル/ポリエステルジャガードの鯉のぼり

ポリエステル製の鯉のぼり

特徴

製法自体にはナイロンとの差異は少ない。昭和中期から隆盛を見せた大型のナイロン鯉のぼりにかわりベランダなどに飾れる小型の鯉のぼりの需要が高まりつつあったことから、誕生した。

この素材が誕生したことで、小型の鯉のぼりセットを目線の高さで楽しむ場合が多くなり、小さい鯉のぼりにおいてもプリント、縫製の技術がより高まったとされている。

またポリエステルジャガードの場合はポリエステルと色味には大差は無いが、やや光沢があるものもある。

表現の違い

ナイロン鯉のぼりが規則正しい柄を持つのに対し、ポリエステル素材の鯉のぼりは日本画に描かれた鯉をデザインしたり、鯉本来の姿に倣うものが多数を占め、古風な鯉のぼりや生き生きとした様を表現した作品が増えた。

ポリエステルジャガードの最大の特徴である織柄が際立ちプリントの下から様々な模様が浮かび上がる高級感ある仕様になっている。

ポリエステルジャガード製の鯉のぼり

素材ごとの鯉の泳ぎ方の違いについて

実際に鯉のぼりを上げてみた。2024年5月6日で、風速は7m/秒ほどと少し風は強めの中で撮影している。

和紙の鯉のぼりの場合

和紙の鯉のぼりは軽量のため風を受けると軽やかに泳いだ。しかし雨風には弱いためしばし破れて損失する事もあったと言破れており、一説にはこれを龍に見立てたともされている。

紙のため、ぎこちなさのあるもののどこか懐かしい空気を感じ、これぞ元祖といった粋を感じる。

和紙製の鯉のぼり

木綿の鯉のぼりの場合

風雨には強くなったものの全体的に重量があったため、全体を大きく膨らませた勇壮な泳ぎは出来なかった。

元々は、さらしの様な織り目の粗いものもあり、織り目から風が抜けお腹を膨らませる事は出来なかったようで、現代では伝統工芸品を中心に、目のしっかり詰まった最上級の生地が用いられ、しっかり泳ぐ姿を見ることができるように改良されている。

下記の写真は目の粗いタイプの鯉のぼりのため、風の強い日になると元気よく泳いでくれる。(風速7m/秒ほどの日に撮影)

木綿製の鯉のぼり

ナイロン製の鯉のぼりの場合

素材が軽く、泳ぎが軽やかでお腹のいっぱいに風を受け、本当に鯉が空中を泳いでいる様な動きをしている。

今回、撮影のために上げた際にも、よく風を受けて軽やかに舞っている様子が伺える。

ナイロン製の鯉のぼり

ポリエステル・ポリエステルジャガード製の鯉のぼりの場合

ナイロンより若干厚みがあるためゆったり泳ぐ特徴をもつ。その堂々とした泳ぎたるや、もうすぐ龍に生まれ変わるころであろうか。

どちらの鯉のぼりも、今回の強めの風の中であっても、風をしっかり受けて優雅に舞う姿を見ることができる。

ポリエステル製の鯉のぼり
ポリエステルジャガード製の鯉のぼり

終わりに

時代と共に、様々な素材と仕様が柔軟に進化してきた鯉のぼり。

それはどの時代も、最良の素材で良いものを作り、節句のお祝いをする事が何よりの心尽くしであると言う考えに基づいています。

今日にいたるまで和紙からポリエステルジャガードまで全ての素材で鯉のぼりづくりが続けられており、改めて鯉のぼり文化がいかに人々に愛されて発展していったが伺えます。

外に飾りづらくなってきた現代において、これから鯉のぼりはどんな進化をしていくのかが楽しみですね^^

荒野

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