雄山作品の1つに「緋糸威」があります。何色の糸を使って威しているかを表す部分は「緋」であるにもかかわらず、現物は黄色であることに疑問を覚えた人もいるのではないでしょうか。そこで、雄山のこだわりについて説明します。
緋色とはどんな色か
世界で色に関する認識・言葉が違うのをご存知でしょうか。虹1つとっても、日本は外側から順に「赤・橙・黃・緑・青・藍・紫」ですが、アメリカなどでは6色。2色で表現するところもあります。
中でも日本は色に関する表現が多い国で、赤系の伝統食は98色あります。「海老色」「銀朱」「乙女色」などありますが、人によっては聞き馴染みがないと感じますよね。
緋色は、シャーロックホームズシリーズの作品名「緋色の研究」で耳にした方も多いと思いますが、英語でスカーレット(scarlet)、真紅の赤色を意味します。鮮やかな赤を火色-ひいろ-と呼んだことが語源と言われています。
日本では古くから、茜・紅花・蘇芳が使われてきましたが、このうち「緋色」は赤色の染料として茜の根で染めたものです。
紅花と黄色染料の2種類を使って出来るものは、同じ“緋”でも、「紅緋-べにひ-」と言います。赤色の中でも黄色みを帯びていますから、「オレンジに見えるな」という人も多いみたいですね。
雄山の緋糸威という作品は緋色ではない?
雄山の作品に、緋糸威という作品があります。ちょっと見てみましょうか。
黄色いですよね。
五月人形の作品名には、色が書いてあることがあります。赤糸威、紺糸威、縹糸威……。何色の糸を使って威しているかが書かれているため、「緋」とついたら赤色を想像するのが妥当です。
理由は、先ほど説明したように、「古代の甲冑の赤い糸は全て植物で染めている」ことが関わっています。詳しい人はここで、「あ、もしかして」とお気づきになったかもしれませんね。
なぜ「緋」にもかかわらず黄色にしたのか
説明するにあたって、赤糸威鎧(竹虎雀金物付)「以下、竹雀」と赤糸威鎧(梅鶯飾付)「以下、梅金物」の製作当時の色を紹介します。
赤糸威鎧(竹虎雀金物付)「以下、竹雀」と赤糸威鎧(梅鶯飾付)「以下、梅金物」は、どちらも赤い色で威しているものです。ですが、7,800年が経った現在、梅金物の方だけ黄色っぽい色に変わっています。
梅金物だけ色の変色が激しいのは、使っている染めの顔料が違うことが要因です。竹雀は茜で染めているため、ほとんど色が変わらず赤い色を残しています。一方で、梅金物は紅花で染めているため、経年で黄色くなりました。
弊社の緋糸とはこの、黄色く変色した錆びた緋色をイメージして「緋糸」と表現しています。7,800年前の色を想像して作るのではなく、時が作り上げた色を再現しているというわけですね。